朝食の為一階にあるダイニングルームに入った里桜は、既にテーブルに着いていた冬矢の姿を目にすると身体を強張らせた。

「おはようございます」

「おはよう」

緊張を含んだ固い声で里桜が挨拶をすると、冬矢は表情を変える事なく挨拶を返して来た。

この一週間、なぜか毎日冬矢と顔を合わせていた。

今迄冬矢は朝早く家を出ていたので、朝食の席で里桜と顔を合わせる事は一度も無かった。

けれど最近は仕事に行く時間が遅くなった様で、毎朝里桜と同じ時間に朝食をとっていた。

特に何か言われる訳では無いけれど、冬矢と同じ空間にいるだけで緊張して身体が固くなる。

あのキスをした日以来、里桜は冬矢を意識してしまっていた。

そんな自分に嫌気がさしたけれど、いくら努力しても冬矢の存在を無視する事が出来なかった。

里桜は気付かれない程小さな溜め息をつき、大きなテーブルの端に座る冬矢に目を向けた。

冬矢は既に朝食を食べ終えたようで、黒木と何か話をしている。

黒木と話が終われば、きっと冬矢は席を立ち外出する。

昨日まではいってらっしゃいと言うだけだったけれど、今日はそういう訳にはいかない。

黒木との話が終わったのを確認すると、里桜は冬矢に呼びかけた。

「……冬矢」

冬矢と黒木が、意外そうな顔で里桜を見た。

「なんだ?」

「明日、実家に行くんだけど……」

里桜の言葉に、冬矢は眉をひそめた。

「そうか」

短くそれだけ答えると、席を立とうとした。

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