夜の11時。

入浴を済ませた里桜が部屋でぼんやりと雑誌を眺めていると、ノックの音と共に冬矢が部屋に入って来た。

雑誌に落としていた視線を上げると、冬矢が近寄って来て里桜が座っているのとは違うソファーに腰を下ろした。

「何?」

用件の予想はついているけれど、里桜は素っ気ない声で問いかけた。

「今日、天音が来たそうだな」

思っていた通りの冬矢の言葉。

「来たけど。お色直しのドレスの事で」

里桜も用意していた答えを、口にする。

「それだけか?」

冬矢は、ごまかしを許さない鋭い目で里桜を見た。

「ドレスの色をピンクから水色に変えてくれって言ったの。それで怒らせてしまったみたい」

冬矢の聞きたい事ではないと分かっていながら、里桜はのんびりとした口調で言った。

冬矢の目に苛立ちが宿るのを感じた。

「それだけか?」

「そういえば、彼女と冬矢の事聞いたけど……昔、付き合ってたって」

思い出したように里桜が言うと、冬矢の目つきが更に鋭くなった。

「なぜそんな話になった?」

「知らない、彼女が勝手に話し出しただけだから」

視線をそらしながら里桜が答えると、冬矢の舌打ちが聞こえてきた。

(どうして冬矢が怒るの? 怒るべきなのは私なのに……2人で馬鹿にして)

里桜は冬矢に怒りの籠もった目を向けた。

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