ポケットに婚約指輪
忘れられない 

今度は私から


【今家に着きました。今日はごちそうさまでした】

【どういたしまして。今週末どっちか空いてる? どこか行こうか】


夜に交わされたそんなメール。
返事はまだしていない。


「ふう」


鏡に向かっての中でメイクチェック。久しぶりにしっかりとメイクをしてきたから、目元の崩れが心配だ。
最後に口紅を引き直すと、後ろから声をかけられる。


「おはよ、菫」

「……刈谷先輩」


心臓が止まりそうになった。なんとなく凄みがあって怖いというか。


「昨日、里中くんアンタのとこ戻ったんでしょ? どうなったの」

「どうって。駅まで送ってもらって帰りました」


刈谷先輩はじっとりした目つきで私を見る。


「それだけ?」

「……それだけです」


嘘を見抜こうとしているのか刈谷先輩の視線は鋭い。
根負けしたのは私の方で、うつむいて目を逸らしてしまった。

< 78 / 258 >

この作品をシェア

pagetop