『マリアがいちばん、愛した人へ』






「ジェイド」


ルトが、私を見てそう呼ぶ。

ディアフィーネの村を出てから二日目の夜、立ち寄った街の宿をとった。

寝台に座って、彼が手を広げる。

優しく、目を細めて。


「おいで」


…そう、言うから。

私は苦しくなる心を抑えて、その愛しい腕のなかへ、身を預けた。



……『おいで』と言われて、目を細められる。

その光景を見て、ルトではない誰かを思い出してしまう私は、嫌な女だろうか。

誰よりも優しく、そして最も私を蔑んでいた人。

私の全てを奪っていった、忘れるはずもない、あの人。


…最近になって強く、思い出すようになった。

狂いそうなほど可笑しな、彼との日々を。






「マリア様、少しでもお食べにならないと、お身体に悪いです」


ナタナ・フレドラ。

目の前で心配そうな顔をする、この召使いの主人の名だ。

「……いらない。食べたくない」

上質な布の敷かれた寝台の上に、ぐったりと座り込む。

わたしは虚ろな目を動かして、そう返事をした。


この作品のキーワード
番外編  続編  ペルダイン  異世界  ファンタジー  奴隷 

感想ノートに書き込むためには会員登録及びログインが必要です。