副社長は溺愛御曹司
sched.03 変わるもの


「ね、もう出るよ、私」



うん、と眠そうな声が返ってくるのに、仕方ないなあとため息をついた。

鍵かけといてね、と耳元にささやくと、布団の中から伸びてきた腕に、抱き寄せられる。

眠たげなキスをされるのに、時間を気にしながら返して、最後には、いい加減にして、と軽く頭をはたいた。


祐也(ゆうや)は高校時代の同級生で、その頃から私たちは、つきあったり別れたりをくり返している。

最近ではもう、つきあうという形もないままに、ふらっとやって来る彼と夜を過ごすような、そんな関係になっていた。


なんでこんなことになっちゃったんだろう、と思うんだけれど。

もともと、仲のいいクラスメイトだったこともあって、会えば気が合ってしまう。


向こうが、私と会っていない間、誰と何をしているかなんて知らないけれど。

私は、そんな器用なことはできなくて。



(いい加減、なんとかしないとなあ)



テーブルの上に置いた鏡の前で、小さく息をついた。

肩に届くか届かないかくらいの、まっすぐな猫っ毛の髪を、顔にかからないよう耳にかける。

そこそこ華やかだけど、派手すぎないガーネットのピアスを選び、つける。

メイクを確認し、準備終了。


秘書の印象は、役員の格を左右する。

私たちが常識的で品性を感じさせる恰好をしていなければ、役員の、ひいては会社の印象を下げる。


髪は遊ばせているほうが好きだし、ピアスはもっとにぎやかなものが好みだけど。

私たち秘書の仕事は、自分を自分のために使わないこと。

役員をサポートし、彼らに尽くし、影としてその執務を支えること。

もちろん、そこそこ見た目のいい影として。

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