彼がピアノを弾いている姿は鮮明に私の記憶に残っていて、数日経った今でもふとした拍子に浮かび上がってくる。


ピアノが弾ける男の人って全然珍しくないとわかっているけど、私の中では新鮮だった。決して男の人だからと偏見があるわけじゃない。


ただ、私の周りにいる男の人とは少し違っていたから驚いただけ。


バイト先で品出しをする海斗を見ていたら、何だかおかしくなって笑ってしまった。声は押し殺してたはずなのに、気配に気づいた海斗が振り返る。


「瑞香? 何? 今笑っただろ?」


むっとした顔の海斗は、私の表情から良くないことを考えていたと悟ったらしい。手を止めて大股でずんずんとやってくる。


「何でもないって、頼もしいなあと思って見てただけだよ」


と言ってる端から笑ってしまう。


「ほら、どうしてそこで笑う? 何か考えてたんだろ?」


凄んで顔を近づける海斗から、微かな煙草の臭いがした。海斗は、煙草は吸わないはずなのに。


「海斗? 煙草吸ってんの?」

「ん? ああ、少しだけな」


海斗は恥らうような素振りで、目を逸らした。



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