聴かせて、天辺の青


「おばちゃん、おはよう」


勝手口の戸を開けて、いつも通りおばちゃんに挨拶。台所に立っているのはおばちゃんひとりだけだったから、とりあえずほっとした。


「おはよう、瑞香ちゃん、今日は来なくていいって言ったのに……眠くない?」

「うん、大丈夫、バイト休みだし、後で買い物も行くから、要る物言ってね」


おばちゃんと話しているのに、意識が違うところに向かっているのがわかる。おばちゃんを見ながら、私の耳は二階へと向けられているんだとわかった。


妙な違和感に戸惑いながらも、おばちゃんの手伝いを始めたけど落ち着かない。


ギシッと天井で軋む音が聴こえた。
それだけのことなのに、私の全神経が二階へと注がれる。


「和田さん、起きたかな……」


食事の支度をする手を止めることなく、おばちゃんが独り言のように言う。私も彼じゃなくて和田さんだと思った。


彼はまだ寝ているんだ。
昨日は遅かったし、よく飲んでたし、酔っ払ってたし。


今日もう一度、彼に尋ねてみようか。


この際、隠したりしないで胸のうちにあるものをすべて吐き出してほしい。たとえ解決には繋がらないとしても、吐き出すだけで少しは楽になるはずだから。




< 149 / 437 >

この作品をシェア

pagetop