聴かせて、天辺の青


「わかった、急がなくていいから気をつけてね」


河村さんは電話を切って、ふうと息を吐いた。

少し困った顔をして、腕を組んでファイルを睨んでる。あれはシフトが書かれたファイル。

「どうしたんですか?」

「うん、藤本君が遅れるそうよ。国道が渋滞してるんだって」


藤本海斗(ふじもとかいと)は私の高校の時の同級生で、ここのレストランの厨房でアルバイトしている。因みに、ここのアルバイトを私に紹介してくれたのは海斗だ。


「藤本君、今日はバイクじゃないんですね」

「弟さんを大亀に送っていった帰りなんだって、東行きが渋滞しているみたいよ」

大亀は隣県の大きな町の名前。ここからでは自分の県の主要部に行くより、隣県の大亀に出て行く方が近い。

「そうなんですね、藤本君の代わりに厨房入りましょうか? 準備ぐらいなら私もできますから」

「ありがとう、そうしてくれると助かるわ」

河村さんにぺこりと頭を下げて、私は厨房に向かった。


< 28 / 437 >

この作品をシェア

pagetop