聴かせて、天辺の青
「彼が知ってる人に似てるんじゃないかな……、だけど確信が持てないから声をかけられないのかも」
「そうか? 俺ならまず声をかけるけど……、前の二人組の彼女みたいに」
「だから、きっと声をかける勇気がないんだよ、引っ込み思案な人なのかもしれないし」
駐車場に入ってきた車が、店の入り口近くに停車した。道路にはもう一台、駐車場に入ってくる車が見える。
「お客が来た、そろそろ戻ろうか」
海斗が集めたゴミ袋を抱えて、店の裏側へと歩き出す。ゆったりとした足取りで進む海斗の背中を見ていると、胸にもやもやしたものが湧き上がってきた。
「海斗、あの人も海棠さんに声をかけるつもりなのかな?」
「さあ、かける機会を窺ってるんじゃないか。だけど……、みんな女だろ?」
「え?」
「アイツに声かけてくる人って、女ばかりだから気にならないか?」
歩きながら振り向いた海斗の口調が、ほんの少しキツくなってる。
なんとなく海斗の言いたいことはわかった。
「それは彼が……」
「俺もアイツが悪い奴とは思わない、だけど気をつけろよ」
海斗の低くて力強い声が、私の言いかけた言葉を遮った。
駐車場に停まっているシルバーの車に乗った女性は、まだ店内を見ている。
彼女が彼を乱す存在でなければいい。
英司が帰ってくる不安よりも、彼のことが気になって仕方なかった。