聴かせて、天辺の青

傷ついた彼を癒すことができるかどうかわからないけれど、せめて彼の傍に居たい。こうして彼の体を強く抱き締めて、冷え切った心を少しでも温めることができればいい。
そうすることしか、私にはできないから。



「ありがとう、瑞香。俺もずっと傍に居るから」



海棠さんが私の後頭部に手を回して、ぎゅっと抱き締める。私も応えるように彼の体を強く抱きとめる。お互いの体から沁みていく温もりが消えてしまわないように強く。



しばらく経って、一陣の風が通り過ぎていった。長い間抱き合っていた私たちに呼び掛けるように、風は強いけれど優しい。



通り過ぎた風を追いかけて、私たちが顔を上げたのはほとんど同時。微笑んでくれた彼の顔からは、悔しさも迷いも消え去っている。
ほっとして笑ってみせると、彼が口角を上げた。



「あの時、『ランドスケープ』好きだと言ってくれて嬉しかった。あれは俺の原点みたいな曲だったから、ありがとう」

「『ランドスケープ』も好きだけど、海棠さんの方がもっと好き」



自分で言っておきながら恥ずかしくなって、とっさに目を逸らす。
同時に、唇に押し付けられた温かな感触。すぐに離れたと安心する間も無くもう一度押しつけられる。力強いのに優しくて、温かさが心地よい。



そっと目を閉じて、私は彼に身を委ねた。







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