星月の君
4 "彼女"




 ぶはっ。

 派手にむせたのはこの邸の主―――藤原顕季殿である。慌てて「大丈夫か」といえば声が出せないらしいものの、大丈夫だと片手を上げて見せた。
 そんな原因を作った張本人はいたってけろりとし、「いやあ、びっくりだったんだよ」といっている。




「敦忠、お前なあ」

「だって、君に北の方だなんて信じられない」

「馬鹿にしてるのか」

「まさか。君は既に恋人がいることは知っているし」

「お前は一度女にこっぴどくふられてしまえ。顔が駄目とか言われてしまえ」




 酒が入っているからか、いつもより顕季殿が饒舌だった。敦忠繋がりで友人となったのだが、これは新たな姿かもしれないなと思う。
 友人の素を知るというのは中々嬉しいものだ。会話に「激しく同意する」と突っ込みを入れる。

 敦忠がいいだしたのは、そう、「顕季のもとへ噂を確かめに行けばいいじゃないか!」ということだった。そんな、と私は反対したのだが(どうせ噂は噂だと思っていたし、この男の被害者を増やしたくなかった)、そんなことではいそうですかと、諦める男ではない。
 なかば強引に、「邸に行ってもいい?」という文を敦忠が出してしまったのである。

 転がり込むようにしてきた私たちてまあっても、彼は「ようこそ」と出迎えてくれたのである。
 ―――申し訳ない。






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