製菓男子。
焼きあがったばかりのジャムクッキーは濃いイチゴの甘い香りを放っていて、ほのかなピンク色をしている。
焼きたては一層ジャムの強い風味がするけれど、冷めてくるとそれが落ち着いてしっとり軽く食べられるようになる。


宮崎さんは教室の壁にある時計を確認すると、クッキーをうちわで扇ぎはじめた。
充分に冷めたとはいえないけれど、それを宮崎さんはOPP袋に入れてシーラーで閉じた。
ヒロくんはそれを「さんきゅー、そー、もっち?」と英語っぽいお礼を言って受け取った。


「あー、よく誤解されるけど、コイツ日本人」


塩谷さんの言葉にヒロくんは「失敗した!」と頭を掻いている。
けれど誤解するのも無理はないと思う。
宮崎さんは色素が薄い髪と瞳をしているし、口数が少なくて、表情もわかりにくい。
“片言の日本語しかしゃべれない外国人”と言われても納得できる。


(無言でいたら授業なんてできないだろうし、どうやって先生をやっているんだろう)
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