製菓男子。
わたしは「カルトンさま」とその四角いお皿を呼んでいる。


「カルトンさま」はいわゆるつり銭トレーだ。
お客さんは「カルトンさま」にお金を置くし、わたしも「カルトンさま」にお釣りとレシートを置く。


そしてさらに「紙袋さま」もいらっしゃられる。


「紙袋さま」は当店のロゴが小さく茶クラフト紙に印字してあって、人さまに贈るのにもぴったりな強度とお洒落感をお持ちだ。
お客さんに手渡すとき、わたしが袋の底部を持っても同色の取っ手が頭を垂れずぴんと立っている。


人の手に触れることが極端にきらいなわたしが、接客業という、大きらいなアルバイトができるのも、この「カルトンさま」と「紙袋さま」のお陰と言っても過言ではない。
「手袋したらいいんじゃないの?」という、ごもっともなご意見も当然ながら聞こえてくるけれど、素手だろうが素手じゃなかろうがわたしの特異な体質はなにも変わらない。
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