夜桜と朧月
きっと、そうして自分に無理を重ねて、その無理が今こうして体に跳ね返ってきてしまったのか。


泣き言を聞いてくれる母は既にこの世にはいない。だとしたら、私が姉を助けてやらなくてはいけないじゃないか。




「暫く会社には有給出すつもりだから、お姉ちゃんのお世話してあげるね」



姉はほぅっと一息つき、安心したように微笑んだ。



「真愛がいてくれるなら、安心かな」



答える変わりに姉の背中を擦ってあげると、姉は静かに横になった。



姉の病状が長期的なものになりそうだったので、私は迷う事なく退職して、姉達が住む近くのアパートに引っ越す事にした。再就職先はそこで決めればいい。



幸い今までに貯めた貯金があったから、姉が出産して床上げするぐらいまでは働かなくても生活費はなんとかなるし、父からも姉を助けてやって欲しいと費用の面でも多額のフォローをしてもらっていたので、当面の生活は困らなさそうだった。




ただ一つ、父にお願いしたのは楓の事。




もし、楓がうちに来ても、私の居場所は絶対に教えないで欲しいと。



私が、どこで何をしているかを、彼には知られたくなかった。


それだけをお願いして、私は姉を助けるために地元を後にした。


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