奪取―[Berry's版]
6.意味
 逆上せそうになるほどの熱を感じて、絹江は両手を扇ぎ風を送る。全く効果のない行為であることは、十分に分かってはいるものの。未だに、喉を鳴らせる喜多の笑いが、絹江の頬に溜まる熱の冷却を妨げていた。僅かな抵抗でも構わない。恥ずかしくも憎らしく思うこの気持ちを、適当な行動で誤魔化したかったのだ。
 視線だけは負けじと、眉間に皺を寄せ喜多をひと睨みしてから。絹江は咳払いをひとつ、意図的に響かせた後。やや乱暴に、自身の脇に置いていた紙袋を、テーブルの上に置いた。それを視界に捉えた喜多が、首をかしげ絹江に問う。 

「ん、何?これ」
「この間、仮紐として借りたネクタイ。きちんと、クリーニングには出したわ……ありがとう」

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