弁護士先生と恋する事務員

 14歳の秘めたる悩み



「なにぃ?メシ行けなくなっただぁ?」


午後7時00分。

残りの業務を片づけて、帰り支度を始めた頃。
先生がスマホを片手に憮然とした声を上げる。


「んだよ、メシ食いに連れてけって言ったの、お前だろーが。」


どうやら、女友達に晩ご飯の約束をドタキャンされたらしい。


「まーた振られちゃったみたいね。」


隣の席の柴田さんがヒソヒソと私に耳打ちする。

そう、実は最近、先生はフラれっぱなしらしいのだ。

弁護士という肩書きに、モデル並みの容姿。
どう考えてもモテないわけがない。はずなのに…

どうも最近、自分から先生に言い寄ってくる女の人が
突然手のひら返したように去っていくらしい。
まるで、心変わりしたとでも言わんばかりに―――


「ったく、女は気まぐれでどうしようもねえな。
おい詩織、メシ食いに行くか。」


先生が私のデスクまで来てばん、と肩に手を乗せた。


「あいにくですが、今夜はカレイの煮つけを作って食べる予定ですので。」

「…んなもん、明日作ればいいだろうが。ってか、やけにしっかりしてんな。ほんとに23か、お前。」

「老成しているとかおばあちゃんぽいとかよく言われます。」

「…はあ…。よし安城、お前暇か。メシ行くか。」

「すみません、僕今日用事があるので。明日だったら空いてますよ。」

「チッ。どいつもこいつも…」


先生はぶつぶつ言いながら、デスクに戻り、ドカッと座りなおした。


「ちょっとぉ。アタシは誘ってくれないの、先生。ヒイキだわ~。」

「柴田さん主婦でしょ!」

「あら、そうだった。」


柴田さんはがはは、と笑って


「スーパーのコロッケでも買って帰るわ。それではお先に~。」


と言って帰って行った。


「それじゃあ、僕も。お先に失礼します。」


安城先生も爽やかな笑顔で、ドアの向こうへ消えていった。


「おう、お疲れさーん。」


剣淵先生はもう少し仕事を続ける事にしたのか、パソコンに向かって打ち込みを始めた。


(私も帰ろう。)


帰る前にと、私は廊下にある共同トイレに向かった。
 
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