弁護士先生と恋する事務員

 so goodby




「あら、今月はバラなのね。」



届けられたばかりの花束を抱えて、柴田さんが品定めをしている。


「まっ白なバラの花束ね。なんだかいつもよりボリュームが多くて、すごく豪華よ。はい、先生。」


「サンキュー。」


いつものように先生は丁寧にラッピングフィルムをはがして、小さなメッセージカードを抜き取った。


「これ、飾っておいて。」


「はあい。」



大きなガラスの花びんに入れられた純白のバラが

少しだけ涼しくなり始めた初秋の風に揺れている。


あとわずかでその役目を終える風鈴は、

残り少ない夏の風を受けて涼やかな音を鳴らしていた。



ああ、きれいだなあ。


平和だなあ。



――大事なことを忘れてしまっていた。



私の願いは先生が毎日笑顔でいてくれる事。


先生が幸せでいてくれたら、私も幸せ。



ずっとそう願っていたはずなのに

いつの間にか、先生が私を好きになってくれないと

この世が終ってしまうような錯覚に陥っていた。



偽善者って笑われてもいい。



先生がもし誰かと結婚したとしても

先生の幸せを心から祝福できるような、

そんな人になりたいんだ。



―――今すぐには無理でも、いつかは。



「ねえ、先生。メッセージカードに何て書いてあるんですか?

そろそろ教えてよ~。」


静かにカードを読んでいた先生に、柴田さんは毎度お約束のセリフを言った。


『柴田さんには教えなーい』


そう返ってくると思った先生の言葉は意外なものだった。


「見てもいいよ、柴田さん。」

 
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