弁護士先生と恋する事務員

 恋の稲妻


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「詩織、今日残業できるか。」


夕方近く、終わらないファイルの山を見つめて剣淵先生がそう言った。


「はい、大丈夫です。」


「そうか、じゃあ悪ぃけどちょっと残ってくれ。」


明日は花の週末だけれど、特に用事も入ってない。


今の私は、少しでも早く仕事で先生の役に立てるようになりたかった。

だからむしろ残業は嬉しいぐらいだ。




19時ちょうど。


みんな帰った事務所の中、私は先生と二人きり、残りの仕事に励んでいた。


ようやく最後の一ページを打ち終えてパソコンを閉じると。



バラ……


バラバラバラ……



大きな雨粒が窓ガラスをたたく音がして

数分も経たずに、外には土砂降りの雨が降り出していた。



「わ、すげえな。いきなり降って来やがった。」


先生が窓から通りを眺めて眉をしかめた。


「帰り、タクシーで送ってやる。

俺の仕事ももう少しで終わるから待ってろ。」


「大丈夫ですよ?私、折り畳み傘持ってきましたから。」


「そんなんじゃずぶ濡れになるだろう。大人しく待っとけ。」


「……はぁい。」


正直言うと、まだ先生と二人きりになるのは辛い。


仕事は別としても、狭いタクシーの中で隣り合わせに座るなんて

また先生を意識して気持ちが浮いたり沈んだりするのがきついのだ。


私の恋心… 否、煩悩は


まだまだ消えてくれそうになかった。

 
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