弁護士先生と恋する事務員

 花束とラブレター

「正妻との子供が七人、愛人との間に認知した子供二人、孫十八人…
かー!じいさん子孫繁栄だなあ…面倒くせぇー」


朝から先生はデスクで資料とにらめっこしながら、ぶつぶつと呟いている。


「何ですかね?」

「例の遺産相続じゃない?」


ヒソヒソと話す私と柴田さん。


ガタッ!

剣淵先生は急に立ち上がって、隣のデスクに座っている安城先生に資料を押し付けた。


「安城!これ、お前に任せるわ!」

「僕、案件詰まってるもので、すみません。」

「だよねー」


あっさりかわされて遠い目をした先生は、大人しく椅子に座りなおした。

どうやらあきらめて、ちゃんとやる気になったみたい。


(あーあ。この前尊君に、仕事に誇りを持ってる立派な先生だって褒めたばかりなのに。)


時々、駄々っ子みたいになる先生に、やれやれとため息をつく私。


なにはともあれ、今日も剣淵光太郎法律事務所は

コーヒーの良い香りを部屋中に漂わせながら

のほほんと営業中。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


コンコン。


事務所のドアをノックする音。


「ちわー。花屋の配達でーす。」


きれいにラッピングされた花束を抱えて、花屋さんが入ってきた。


「あら、今月はオレンジ系ね。」


伝票にサインをすると、花束を受け取った柴田さんがまっすぐ先生のデスクに向かった。


「はい、先生。今月も来ましたよ、『佐倉さん』から。」

「おう来たか。はいどうも。」


先生は柴田さんから恭しく花束を受け取ると、早速丁寧に透明のラッピングフィルムをはがしていく。


事務所のスタッフ一同が注目する中、
黄色やオレンジのビタミンカラーに統一された爽やかな花束があらわれた。


「ミニ向日葵にガーベラ、バラ、スイートピーか…夏らしくていいわねー。」

と、柴田さん。


先生は添えてあった小さなメッセージカードをすっと抜き取り、大事そうに引き出しにしまった。


「柴田さん、これ飾ってくれる?」

「了解~。ところで、ねえねえ先生。その紙になんて書いてあるの?」


興味シンシンで柴田さんが尋ねる。


「教えなーい。」


先生が少し照れくさそうな顔をしてそう言った。

 
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