弁護士先生と恋する事務員
大きなガラスの花瓶に入れられた花束は

事務所の雰囲気をぱあっと華やかにさせた。

開け放たれた窓からすべりこんでくる風を受けて

かすみ草が涼しげに揺れている。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


「だけどよく続くわよねー。かれこれもう…3年近く?」


お昼休み、弁護士先生二人はそろって地裁に出かけていて、事務所には女子二人だけだった。

柴田さんと私はお弁当を食べながら、ぺちゃくちゃと花束談議をしていた。


「詩織ちゃん、この事務所に入ってどれぐらいだっけ?」

「去年の秋からだから…10か月くらいですね。」

「そっかぁ。…この花束はね、先生が独立してこの事務所を開いて、しばらくしてから送られてくるようになったのよ。」

「へえー…。」

「毎月、お給料日を少し過ぎたくらいにね。一度も、途切れた事ないわ。」


事務所を始めた当初から働いている柴田さんは、いろいろな事をよく知っている。


「差出人の住所はいつも書いてなくてね、“S.S”ってイニシャルだって事しかわかんないの。先生にも見当がつかないらしいわ。

毎月メッセージカードに何か書いてくるみたいだけど、教えてくれないし。きっと愛の言葉が書いてあるのよ、間違いないわ。」

「はあ…」

「いったい誰なのかしらね~。」


昨日の夕飯の残りを詰めてきたというチーズ肉巻きを頬ばりながら、柴田さんは探偵並みに推理を続ける。


「昔の女かな。別れたけど先生が忘れられない、とかさあ。」

「あはは…まあ、先生ならありそうですね。叩けばホコリが舞い上がりそうですし。」

「もしくは、昔弁護を引き受けた誰かよね。例えば犯罪を犯して、先生の弁護で刑期を軽くしてもらった誰かが、出所してきて先生に恩返ししているとか…」


柴田さんの推理(妄想?)はどんどん広がっていく。


「とにかく、これってアレよね!」


ついに興奮気味の柴田さんが結論を出した。


「何ですか?」

「『紫のバラの人』!ガラスの仮面よ、知ってるでしょ。」

「んー、名前だけは。中身はよく知らな…」



「つまり!“S.S”さんは、ずうっとずうーっと、先生を想い続けている女の人だって事!」



柴田さんの推理に、意外性はなかった。

 
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