弁護士先生と恋する事務員

 コムスメ食堂繁盛する




青い夏空に、飛行機雲が長いラインを描いている。



照りつける日差し。

熱せられたアスファルト。

窓辺に吊るされた風鈴。

蝉の声。



「この事務所、クーラーの効きが悪くないですか?」


黙々と書類作成をしていた私は、耐えきれず隣の席の柴田さんに話しかけた。


「暑いわよねえ。クーラーも、喫茶店当時の物使ってるから、もうガタがきてるんじゃない?」

「新しいのに取り換えてくれませんかねえ。」

「そうねえ、でもこの事務所、毎月ギリギリ、とまでは行かないけどそんなに潤ってるわけでもないのよね。」

「そ、そうなんですか。」


経理の柴田さんが言うと、リアルでぐうの音も出ない。


「ほら、うち、地域密着型というか…離婚とか借金とか交通事故とかさ、いわゆる小さな民事事件がほとんどでしょう?もっと大口の仕事を受ければいいんだけどね、剣淵先生欲がないから。」

「はあ…。」


そうなのだ。


剣淵先生と安城先生はそれぞれ若くして司法試験に合格した優秀な弁護士さんなんだけど

大きな事件に関わって名を上げたり企業の顧問となって大口の仕事を請け負ったりという気がまったくないらしい。


(エアコンが買い替えられるのは、まだずっと先になるかな。)


まあ、そんなマイペースさが先生のいい所だと思うんだけど。


仕方なく、デスクの棚にクリップで留めてある簡易扇風機(高さ20cmぐらいのミニミニ扇風機)を回し微風でやり過ごす。


また書類作成の仕事に戻り、黙々とこなしていると



「遊びに来たよ~♪……ん?」


事務所のドアが開いて元気のいいジュリアさんの声が聞こえたと思ったら、なぜかドアの外に消えた。


「あれ?どうしたんでしょうね。」

「忘れ物でもしたんじゃない?あの子常習犯だから。がははは!」


柴田さんは慣れているとばかり、まったく気にしていない様子。

すると再び事務所のドアが開き、ジュリアさんが大きな花束を抱えて入ってきた。


「コータローセンセー、今月のお花でーす!」


真っ直ぐに剣淵先生のデスクへ向かうと、恭しく花束を渡しながらジュリアさんはこう言った。




「ずっと黙ってたけど、私がこの花束の贈り主、『佐倉』なんでーす♪びっくりしたぁ?」


 
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