弁護士先生と恋する事務員

 結婚しない理由



「ハアーイ、コータロー先生。差し入れだよ~♪」


午後7時。


ジュリアさんがワインを片手に事務所へやってきた。

隣に、ジュリアさんによく似た雰囲気の女の人が立っている。


金髪の巻き髪、カラフルなネイル、アイラインをたっぷり引いた目元で、瞬きをするたびにつけまつげが生き物のようにバサバサと上下している。


「おう、ジュリア来たか。……ん、隣にいるの、誰だ?」

「友達も来たいっていうから連れて来ちゃった!ソニアっていうの。ジュリのネイルサロンの子だよ。」

「ソニアでーす!飛び入り参加しちゃってもいいですかー?」


ソニアさんは顔の前で手を合わせて剣淵先生にかわいらしくお伺いを立てた。


「ああ、ジュリアの友達だろ、かまわねえさ。よし、ソニア!詩織に挨拶しとけ。今日の料理長だからな。わははは!」


剣淵先生は小さなカウンターで食器の配膳をしていた私を目で指して言った。


「料理長!ソニアッス!よろしくッス!!」


すかさずソニアさんが一瞬で体をくの字に曲げ、敬礼しながら男らしく言った。


「う、うっす!」


私もつられて男らしく敬礼で返す。


ジュリアさんもそうだけれど、ソニアさんのように間髪入れず、会話のリアクションができる人を常々すごいなあと感心してしまう。

きっと頭の回転がものすごく速いんだろう。


「あら~、ソニアちゃんじゃない。さあ、座って座って。」


“カツオのたたき、香味野菜たっぷり乗せ”の大皿を運んできた柴田さんが席に座るように促す。


「あ、ジュリママどもー。うわあ、美味しそう!」

「ソニア、座ろう。ジュリ王子の隣ー!王子、ワインにする?ビールにする?それともジュリアにするー?」

「ビールで!」


ジュリアさんに寄りかかられた安城先生が即答する。


料理係の私と柴田さん以外のメンバーは、応接セットのテーブルを二つ並べた席に、それぞれ座り始めた。


「じゃあソニア、コータロー先生の隣ー。うわあ、こうして見るとコータロー先生マジイケメン!超タイプ!」

「そうかそうか、お前見る目あるじゃねえか、わははは。さあ、食え。」


まるで合コン会場みたいな雰囲気で、二度目の食事会は賑やかに始まった。
 
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