弁護士先生と恋する事務員

 先生のいない週末


――次の週。


先生は札幌へ出張に行く事になった。


水曜日から金曜日までの三日間だけれど、週末をはさむから翌週の月曜日まで会えない計算になる。


(五日か。長いなぁ…)


水曜日の朝。


コーヒーの香りが立ち込める事務所には、当然先生の姿はない。

一緒にコーヒーを飲みながら他愛もない話をするのが、すっかり毎朝の習慣になってしまったみたい。


私は一人でコーヒーをすすりながら法律の本を開いたけれど、その内容はなかなか頭の中に入ってこなかった。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


「先生今頃、空の上にいるかしら。」


仕事が始まって早々、柴田さんが呟いた。


「そうですね、10時30分には千歳に着く予定ですからね。」


「詩織ちゃん、お土産何お願いしたの?私チョコレート頼んじゃった。ここのブランデーを練り込んだ生チョコっていうのが美味しいのよ。」


「私はよくわからないからお任せにしました。変なキーホルダーとかはやめてくださいって言ったけど。」


「先生ならありえるわね、イタズラ好きだから。がはは!」


そうなのだ。先生の事だから、釘をさしておかないとどんな無駄な買い物をしてくるかわかったものじゃない。


「今夜はススキノで豪遊してくるんじゃない?またキャバクラのお姉ちゃん達に名刺配ってこなきゃいいけど。」


「本当ですよね。先生ったら考えなしに誰にでも渡しちゃうから、後から事務所の方に電話がかかってきて面倒なんですよね。」


「そうそう。この前だってさ…」


私と柴田さんは先生がいないのをいい事に、先生の軽い言動についてさんざん文句を言ってやった。


先生が自分の携帯番号を入れ忘れたミスプリントの名刺をあちこちの飲み屋で配るものだから

事務所の方にたくさん電話がかかってきて、後から事務員が迷惑するのだ。


だけどやっぱり、いつもわははと笑っている先生がいないと寂しくて、事務所のみんなもなんとなく調子が出ない。


先生は真夏の向日葵みたいに、そこにいるだけで周りをパアッと明るくできる存在なんだ。


(早く帰って来てくれるといいな)


私は頬づえをついて、そっと溜息をもらした。
 
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