弁護士先生と恋する事務員

 バイバイ、メガネ


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若くして私を産んだ母親は、間もなく父と離婚。

それからはホステスとして働きながら奔放に恋愛を楽しんできた。


しばらくの間、祖母の家で平和に暮らしていた私だけれど

祖母が体調を崩してからは、「新しいお父さん」と母と三人で

狭いアパート暮らしが始まった。



『詩織ちゃん、詩織ちゃんはお母さんに似て美人だねぇ』



「お父さん」なんて思えるはずもなく

単なる母の恋人の、その若い男が、私によく言ったセリフ。

それを聞くと、嫌悪感で寒気がした。


クラブ勤めの母が出勤すると
男と私は狭いアパートで二人きりになってしまう。


女として見られない様に、ダテメガネで顔を隠し

体のラインが出ないダボダボのダサいトレーナーを着こんだ。


さらにドアに鍵を付け、部屋にこもっていたから

テレビを見るどころか、トイレに行く事さえままならない

不自由な夜を強いられていた。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


「はあー…」


チャプン……


湯船に肩まで浸かりながら、私は先生の事を思い出していた。


先生の熱い体

先生の匂い


『詩織……』


耳元で名前を呼ばれ、強く抱きしめられた。


思い出すだけで、胸が


ドキドキ……


(どうしよう、何度も何度も思い出しちゃう)


――同じ大人の男でも、アイツとは全然違う。


男の人に触れられると、嫌悪感しかなかった私が

あの時の事を考えただけで、甘美な刺激に包まれる。


まるで、体の奥に火を点けられたみたい。

種火が常にくすぶって、心をざわめかせる。


(先生……)


きれいになって、私の事を見てほしい。

先生が、好きだった誰かを忘れちゃうぐらい。
 
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