昨日は、厄日だと思った。

 だけど、違う。あれは、ほんの序の口。ただの不幸の前触れだったみたい。



 私が出勤するなり、静まり返るオフィス。

 あからさまな、ヒソヒソ声。

 バチッと目が合って、慌てて私から目を逸らしたのは、山田君。

 感じ悪い。昨日の事をまだ、根に持ってるの?

 なんて、私の想像力はそこ止まり。

 そんな単純なものではないのに、この時点で私は、この異様な空気に、大きな疑問を抱かなかった。

 「織江君」

 え?

 私は名を呼ばれて、振り向く。

 名を呼んだのは、うちの課の部長だった。

 いつも出社時間が遅いのに、今日はずいぶんと早いのね。

 部長の顔色は、なんだか悪いように見えた。

 大丈夫?? と、私は思う。

 でも、心配なんかするんじゃなかった。

 「はい」と、返事をする私を部長は、手招きする。

 「ちょっと、来てくれるかな」

 私はコクリと頷き、誘導されるがままに、会議室に入った。

 誰もいない会議室はシンッとしていて、なんとなく空気が重たい。

 ゆっくり座る部長に続き、私も向かいに腰かけると、思わず私は問いかけた。

 「あの、何か?」

 私の言葉に、部長はチラリと、私を見る。

 「織江君……君。昨日、会社の前でガラの悪い男と一緒だったみたいじゃないか」

 ――え……?

 ドクンと、心臓が変な感じで跳ねた。

 嫌な汗が出る。体が冷たくなるような気がして、凍りつくって、こんな感じなんだと、思った。

 見られた。いったい誰に? 誰が?? 誰―――……。

 あ……!!

 私は、不自然に目をそらした、山田君を思い出した。

 アイツ……。告げ口された! 腹いせに?? 信じられない!

 私は内心、穏やかじゃなかった。

 これは、私の危機的状況なことくらい理解できる。

 なんとか、しなきゃ。慌てず、ゆっくり、落ち着いて!

 やましいことなんか、一つもない!

 「部長、それは―――」

 「君、借金をかかえてるの??」

 部長は、いきなり確信をつく。

 私は瞬時に、理解した。

 そう……。そういう、こと。

 山田君はちゃんと、あの時の会話まで聞いて、それも報告済みってわけね。

 清々しいくらい、きれいに報告しているんだわ。

 それくらい、お金にもキッチリすればいいのに。

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