春登は、老舗の呉服屋の長男だった。

 年は35歳で、私より6歳年上。私と、同い年の弟がいるんだとか。

 社長になれるくらいだから、もちろん経営能力もあり、なかなか頭もいい男。

 しかもあの容姿に、あの声の持ち主。

 客商売にはピッタリで、春登は女性客の心をつかんで、はなさない存在なのだとか。

 人当たりもふわりと柔らかく、爽やかだからか、男性からは特別視されていて、ヒガミすらもない。

 それどころか男性にまで好かれ、ファンがいると言うのだから、並べるすべてが恵まれ過ぎ。

 出来過ぎでカンに障るわ。でも……。

 女性関係があれじゃ、完璧に見えて、そうじゃないって私は思う。

 そうは言っても、春登のお家柄は良すぎる。

 だから、結婚なんて出来ないんじゃないかと思ったけど、それはなんの問題も無く、とんとん拍子に進んでいった。

 人がイイと言うか、なんというか……。

 自分で言うのもなんだけど、春登の両親は、よく私を受け入れたものだと思った。

 老舗の呉服屋なら、育ちや、地位。そんなものを、息子の結婚相手に望むのだと、私は思う。

 なのに、あの両親ときたら、私の地位を気にしない。

 息子の決めた人だからと、大きな心で私を受け入れてくれた。

 それはたぶん。私が両親を亡くし、一人で頑張って堅実に生きてきた女性なんだと、春登が説明したからだと思う。

 成り上がりでもなく、生粋のお金持ちは、人が良く、そんな私を、ほおってはおけない。

 大事にしたいと思ったのだと思う。

 同時に、息子が結婚を決めた事に、とても喜んでいるのだと、私は思った。

 春登の両親からすれば、私はきっと、凄い人なのよ。

 女性好きな春登を射止めた、奇跡の人。なんて、思えているのかもしれない。

 事実はそうではないのに。嘘なのに、ね……。

 春登には言われた。

 借金肩代わりのことは、言わないでおくと。

 それは私たちの関係と一緒に、秘めるべきこと。

 まぁ……。確かに。言えるはずないわよね。

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