かえるのおじさま
共働き
彼の唇を待って目を閉じた美也子は、実にばかばかしい思いに囚われていた。

(キスしたら、王子様になったりして……)

昔読んだ童話のように。

(無理ね。王子様って年じゃないもの)

だが、ギャロなら素敵なオジサマになることだろう。

容姿の話ではない。
憂いと年輪を乗せた、柔らかな表情の醜怪種の男に……

(なってしまえばいい)

そうすれば同じ醜怪種である自分を選んでくれるだろうか。

近づいてくる呼吸を待つ也子の心中は、のろいを解く姫ではなく魔女のそれであった。

(私を愛してしまえばいい……)

呪いこめて差し出された唇を、彼の呼吸だけが静かになぞる。
彼の唇が触れたのも、小さなキスの音を感じたのも、頬。

呪いを掛け損なった気分で目を開ければ、そこにあるのはやはり、大きな土緑色の蛙の顔だった。
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