あの日まではただの可愛い女《ひと》。
筋 肉 試 食 会
 その日は、いつもどおりの飲み会のはずであった。
 年齢も職業も全てばらばらの男女の趣味の集まり。ひたすらバカ話をして盛り上がるだけのいつも通りの飲み会。

 鈴木桜は、すでに杯を重ねて、少し酔っ払いだして溶け始めた自分の思考に気がついてはいたが、その心地よさに身を任せていた。

「レアキャラ来ましたー!」

 ふとそんな瞬間に、仲間の一人が声を張り上げてそちらに目線をやると、ゆるいウェーブがかかった黒髪に俊足な動物を思い起こすような大柄で、真っ黒な目の男が自分たちのテーブルに寄ってくるのに気がついた。
 4つほど年下の友人で、出張が多い仕事らしく、あまり集まりに顔を出さない男、藤間葵(とうま あおい)である。宴席で見かけるのが少ないので『レアキャラ』と揶揄されることが多い。

「ご無沙汰ッスー」

 椅子に座ると同時に寄ってきた店員に生ビールを頼んでニコリと笑う。
 スーツの上着を抜いて、ネクタイを緩めて腕まくりをする。大きく筋張った長い指先に桜は思わず見惚れてしまう。正直、葵の体つきが好みで目がいつも離せない。そういう自分が恥ずかしくて、飲み会の席ではあまり近いところに座らないようにしていた。

 ゴクゴクと生ビールを葵が平らげる。血管が浮き出た腕や、喉仏が上下する様を思わず凝視してしまっている自分に気がついて赤くなってしまった。自分のそんな様子をごまかすように桜は目の前の焼酎のグラスに手を伸ばした。

「あれ?葵っていい筋肉ついてるよね~。なんだその体?」

 ぶほっとその言葉を聞いて桜は思わずむせてしまう。
 ――が、周りはそんなことを気にせず、騒ぎが始まっていた。
 この集まりは趣味の集まりなせいか、あまり男だとか女だとか気にせず、忌憚なくみんなが自分の意見や面白さを追求する。その辺りの雰囲気が居心地のよさにつながっているのだが、たまに行き過ぎた行動につながることがある。

 なぜか女ではなく、男達が葵の体を触りまくり始めていた。

「何この上腕二頭筋!?」
「腕結構太くね?」
「いやいや、それよりこの太ももいい感じだよね~~~」
「どこのジム? あのゲイゲイしいジムいってんの!?」

 そんなテンションの高い男達の様子をものともせず、葵は二杯目のビールを空けようとしていた。

「いや。ジムとか行ってませんて。出張先のホテルでやることがないんで、懸垂とかやってるだけだよ」
「へー。そんなくらいでこんだけつくんだ?」
「ま。子供のころに少林寺とか運動させられてたからね。もともとそこそこついてたって言うのは大きいよ」
「そうなんだ?腹筋とかわれてるの?」

 男達が少し落ち着いたので、女達が会話に入ってくる。

「あー。綺麗には割れてないけど、そこそこ出来てますよ」

 そういって、腹筋発言をした女子の手をとってお腹にぴとりとつけた。

「うわー。腹筋すごいね~~」
「俺結構、骨太くて筋肉つきやすいんですよ」

 その発言で一挙に女子が葵の体に触りだす。
 桜も思わず、かなり好みの体のパーツを保有する葵に触れるチャンスを逃すわけもなく、腹筋や上腕二等筋あたりをさわさわと触った。

 ――うわー。なんちゅか、筋肉ってあったかいなぁ。硬いっていっても妙に弾力あるし!

 『筋肉筋肉~』と楽しそうに言いながら、癖になりそうと思って触っていたが、だんだんテンションが上がってしまったせいか酒量をコントロールできず、思考がより一層溶け出すのを桜は感じた。

 そのうち脳裏になぜか『そこまで好きだったら試食してみます?』と葵の声がした――。






「あれ?」

 桜はふっと気がつくと、周りが静かで、下肢に温かい気配がしていることに気がついて、我に返った。

「あれってなんすか? 桜さん」

 自分の下から聞こえてくる声にびくりと桜は体を揺らして恐る恐る下を向いた。
 そして自分が葵の体をまたぐようにしていることに気がつく。そして、彼のワイシャツのボタンも半ばはずしている自分の指にも。今日は大きな会議があったため、着ていたスーツのタイトスカートが上にまくれ上がって、ガーターベルトが少しそこからのぞいていることに気がついて驚いて、真っ赤になった。

「ま。我に返ってくれてちょっとよかったかも。さすがに酔っ払って訳わかってない人どうにかするのも気が引けるしね。桜姐さん、ガーターベルトなんスね~」

 そう言って葵は桜のガーターベルトに指を差し込んでストラップをバシッとはじいた。

「痛ぅっ…」

 葵がそのままスカートをめくりあげて、にこりと笑う。

「ふっ。白いレースの下着って。セオリーのダークスーツをカチッと着てて、隙がなくて禁欲的なのに、これはやらしいですよ。…うっわー。ケツやわらけえ」

 スカートをめくりあげたあとに両手で葵は桜の尻をやわやわと揉んだ。飛び上がって桜は葵の胸を叩く――が、その手を拘束されて引きずり寄せられて唇をついばまれた。少しだけアルコールの香がして、自分もアルコールの匂いがするのでは?と思わず、ぎょっとして軽く唇が緩む。そこに、葵の舌が進入してきて、しばらく、くちゅとした水音がお互いの唇から響く。アルコールの芳醇な香とスパイシーな何かの味がして、思わずその香を追うのに夢中になってしまう。こんな風にキスに夢中になるのは自分が酔っているからか? と頭の隅で一瞬考えるが、息が出来なくて快感に追い上げられて、思考が霧散する。

「ん。やぁっ…」
「声も、かわいいなぁ。思う存分啼《な》かせたくなりますよ?」
「ひっ」

 そういって、葵は桜の中心に膝を差し込んでぐりぐりと押し付ける。

「やっっ」

 自分のものとは思えない甘い声に桜は羞恥を深くした。思わず、葵の胸に顔を押し付けるように逸らすが、顎に手を差し入れられて目線が葵にぶつかってしまう。

「はは。顔真っ赤ですよ、桜さん」

 少し弄《なぶ》るような傲慢な笑みを貼り付けているというのに、桜は葵から目が離せなかった。胸が妙に楽になったことに少し息をついたが、それは上半身をいつの間にか脱がされて、ブラジャーのホックを開放されたことに気がついて、桜は思わず動揺して体を揺らした。

「結構胸でかいね。俺、手でかいってよく言われるけど、収まんねえよ」
「んんん」

 そう言われて、体の位置が入れ替えられた。ふと気がつくと、スカートも床に落とされて、ガーターストッキング一式とショーツという格好にさせられていた。

「あ。やぁ! まって、まって」
「待つわけないじゃん。ばかだなぁ」

 力の入らない拳で葵の胸をぽかりと叩いたが、その手を包み込まれてキスを落とされる。そして葵はそのまま、指をショーツの下に滑り込ませる。

「――!」

 指がゆっくりと莢を掻き分けてその下の花芯を優しく触る。

「っあ!」

 思わず腰が揺れだすのをとめられなくて、瞳が潤み出すのを桜は止められなかった。

「そ…そこ、やっ、んん」
「なんかめっちゃ濡れてきてますよ?」

 くちゅりという水音が耳に届いて、桜は思わずシーツに顔を押し付けてしまった。
葵が、そんな桜の様子を笑みを浮かべて満足そうに見やる。ぺろりと耳元を舐められた衝撃で桜は葵を思わず見てしまう。そんな桜から目線をはずさずに、葵は桜の下肢から抜いた指をくちりという音をさせて舐めた。

「っあ!」
「いやらしい味だなー。桜さん」

 そういったかと思うと、桜のショーツを下に下げて片膝を押し上げる。片方の足首に白のレースのショーツがぶら下がった光景が妙に淫靡だが、桜にはそんなことを感じる余裕はなかった。なぜなら、葵が桜の花芯にキスを落としたからだ。敏感な部分に厚くてぬめっとした感触がして、背筋が震えた。

「ゃぁん。汚いから……、は、なし…てぇ」
「いやですよ。こんなに可愛くて、おいしい桜さん、離すわけないじゃん」

 微肉越しにしゃべられ、それが快感へとつながる。桜は自分の中から何か溢れそうになっていることに気がついてさらに震えたが、葵はそんな桜の様子をくすりと笑ってさらにすすった。すすりながら蜜口に指を差し込んでいく。

「くふん…」

 自分のあえぎ声が怖くなって、思わず口を押さえる桜の手を掴んで葵が囁く。

「声、きかせて? 桜さんのあえぎ声、すげーエロくて、イイから」

 首を横に振るが、葵は桜の蜜口をいじるのをやめない。ゾゾっとするような気配に腰が揺れる。

「ぐっしょぐしょですよ」
「やっ…」

 そう言っても葵がやめるわけもなく、指を増やし折り曲げて桜の膣内《なか》を探る。ある箇所を指がかすった瞬間に、自分でもオーバーだなと思うくらい体がはねた。

「桜さんのイイところ発見」
「ふぁぁ…。あっあ」

 先ほど感じた箇所をしつこくなぞられ、たまに秘芽をつままれたり、揺すられる。そうやって自分が高まっていくのをとめられず、桜は葵の体にいつの間にか自分をこすりつけるように抱きついていた。

「ひぅっ! んーーーーっ」
「エロい顔ですね。それに桜さんの膣内《なか》、俺の指食いちぎりそうなくらいぴくぴくしてますよ」

 凶悪といってもいいようなイジワルな微笑みを顔に貼り付けて、葵が少し体勢を変えたことに桜は気がついたが、何がはじまるのかは予想が出来なかった。
 次の瞬間、指では感じられないような圧迫感が下肢から感じてのけぞった。

「うわー。すっごいせっまいなぁ。全部入れたらギッチギチなんだけど」

 それでも揺するようにゆっくりと差し込まれる気配に、桜は思わず葵の顔を見てしまう。のんきそうな声の割には葵も眉間に皺を寄せて耐えるように体を進めてくるのが見えて、少し胸の奥がキュンとなった。

「ものすごく熱くてうねってるよ、桜さんの中。気持ちよすぎておかしくなりそうだ」

 そう言って桜の耳を食みながら、なぜか掠れた声で葵がつぶやく。胸の痛みに重量が増えた気がしたが、体を揺すられて思考が散っていく。

「んんん~~~。う…ごかさな…い、でぇ」
「桜さん。爪…立ててもいいよ?」

 縋るものが葵しかないような気がして、桜は肩口に必死にすがりついた。爪をかむ癖があってスカルプをつけている桜は、指先がすこしポキンという感触を感じたが、スカルプが外れたことにも頭が至らない。体の中心からはじけていく感覚のみが自分の思考を埋めた。

「あーあ。桜さん引っつかむから、ネイル一本取れちゃってるじゃん」

 そういって葵が、スカルプが外れた指先にすこし荒くなった吐息とともにキスを落としてきた。桜もハァハァと息を荒げている自分に気がついたが、そのあと唇に葵の体温を再び感じて、口内を蹂躙する肉厚の舌と少し酒精が残るスパイシーな味、首筋や肩をさわさわと触る体温に夢中になり、気を失うようにそのまま眠りに落ちた。

 そして翌日、目が覚めても葵の腕の中に囲い込まれるように眠っていた自分に、桜は再び驚くはめになる。
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