溺れる月
月齢11

月齢11 裕人

 久しぶりに出かけると言うと


叔母さんは喜んで、そこまで一緒に行こうと言った。


「あたしも今日、検診だから。」


駅に向かって二人で歩く。


途中で、叔母さんの荷物を代わりに持つと、


「ありがとう。ヒロ君はいい子ね。」


と誉めてくれた。


母にも、そんな風に誉められたことが


あまりなかったので、少し照れた。


そして


「今度こそ、子供が出来るといいな。


ヒロ君みたいないい子が欲しいな。」と小さく笑った。


あや子叔母さんは、子供が出来ない。


もう、三年も不妊の治療に通っている。


 こんな田舎町で、


夫婦に子供が出来ないと言うのは結構な苦労の様で、


僕の母のところに叔母さんが泣きながら


電話をかけてきたこともあった。



 駅の改札の前で雫がこっちに向かって手を振っている。


叔母さんが


「かわいい子。今度家に連れて来てよ。」


と笑い、急いで改札を抜けて行った。




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