時間の本
時間旅行




その男と少女が出会ったのは、夕暮れ刻の空き地でした。彼を、少女は初め、郵便屋さんだと思っておりました。なにせ彼は配達屋のような服を着て、古めかしいアタッシュケースを持っていたのですから。丸眼鏡を鼻の上にちょこんと乗せた男は、鞄からこれまた古めかしい一冊の本を取り出すと、こう言いました。

「この本はどの時間へも連れて行ってくれるんだ。さあ、君はどこへ行きたい?」

少女は答えました。

「この空き地が一番美しかった過去がいいわ」

すると、本のページが独りでに捲られ始めました。一枚、三枚、四枚。瞬く間に景色も変化していきます。気付いたときには、二人は既に花畑の中に立っておりました。少女は感嘆の声をあげました。

「まあ、なんて素敵なの」

少女は心行くまで蝶と戯れ、花の香りに触れ、足を踊らせました。春の色が地上を覆っています。存分に楽しんだ後、二人は元の時代に戻りました。少女の顔には笑顔が溢れておりました。


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