ストロベリーショートケーキ
彼女は――……こんな自分に、愛想を尽かしたのだろうか。

安達と彼女は、たしかそれなりに仲が良かったはずだ。そんな友達を、ひどい形相で掴みあげていたなんて。

こわい、と、そう思われたかもしれない。


……だって俺は、最初から気づいていた。

佐倉が、その場の勢いで、俺の告白にオーケーしてしまったこと。

わかっていて俺は、彼女の"恋人"という立場を手に入れたのだ。

だから、ここで彼女に非難を浴びせられても、それは仕方のないことで。

たとえそれが別れ話だとしても、俺には、止める権利など存在しないのだ。


彼女の小さな手が、俺の人差し指に器用に絆創膏を巻いていく。

――ああ、でも。

でも、と少しだけ自惚れるのを、どうか許してほしい。

俺の作ったお菓子を食べたときの、彼女の笑顔は。

それは、怯えたり、強制されたりしていない、心からのものだったと。

それだけは、どうか、信じさせてほしいのだ。


と、そこで俺は、絆創膏を巻き終えた佐倉の指先が、かすかに震えていることに気づく。

いや、指先だけじゃない。彼女の薄い肩も、腕も、小さく震えていた。

そして俺はようやく、下から覗き込むようにして、彼女の表情をうかがう。



「……ッ、」



瞬間、驚いて目を見開く。



「さ、くら……?」

「………」



彼女は、声を堪えて、泣いていた。
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