偽りの婚約者


「……千夏には触れないで下さい」



「分かったからそんな怖い顔で見下ろすな。安西さんが怯えてるぞ。
安西さん、これ部屋に置いたの俺なんだよ」



「でも、これは紗季さんの腕時計でしょ?」



「そうだよ、これは中島さんの腕時計。
これを今朝、中島さんから預かって君が彼女に足留めされてる間に置いたんだ」


じゃあ紗季さんは、マンションには来てなかったんだ。



「紗季さんがここに来たって言ったのは嘘だったんですね?」



「中島さんとはお互い目的のために組んだんだ。
どうしても君がほしかった。
でも、そんな顔見たかった訳じゃない」


「主任……」



「今回の事は本当に申し訳なかったよ。後悔しているんだ。
それから中島さんの事を許してやってくれないか?
君は中島さんと仲が良かったからショックだったと思う。

けど中島さんにもどうしようもない想いがあって辛かったはずなんだ。
直ぐにじゃなくてもいいから、いつか許してやってほしい」


主任は私に頭を下げた。


「今日は、いろいろとあってまだ混乱してます。だから時間がほしいんです」


「安西さんがいつか許してくれるって言ってくれるのを待つよ」







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