あれは灰色の世界での出来事だった。

霧が立ちこめる薄暗い林の中を、紗矢(さや)は駆け抜けていた。

陰鬱な周囲を全く気にすることもなく、幼き双眸は一羽の小鳥だけに注がれている。

紗矢が引き寄せられるように追いかけているのは、鮮やかな赤を身にまとう小さな鳥。

灰色の中に紛れ込んだそれは、異様な生き物だった。

姿格好は鷹のようにも見えるが、尾ひれは長く、先は二つに分かれている。

そして鮮やかな赤の残像を残しながら、鳥は紗矢の目と鼻の先を飛んで行く。


「ねぇ、待って……待ってったら!」


手を伸ばし叫べば、鳥がゆったりとした動きで旋回し、紗矢の腕へ微かな重みと共に舞い降りてきた。

鳥の小さな頭部をそっと撫でれば、柔らかな感触が返ってくる。


「可愛い!」


同じ言葉を繰り返しながら、頭から羽へと指先を滑らせた。

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