「行こう、若葉」

「……でも」

「大丈夫だよ。俺がついてる。傍にいるから」


安心させるように、若葉の肩に珪介の手が乗せられる。

思考を上手く働かせられないまま、紗矢は自分から遠ざかっていく二つの背中を見つめていた。


(私……夢でもみてるの?)


だんだんと視界が涙でにじんでいく。


「違うよ。ちゃんと起きてる……現実なんだよね」


壊れてしまった形見。赤い鳥。灰色の鳥。卓人の告白。強引なキス。

仲の良かった若葉の変化。

彼女を守るように自分を睨みつけてきた珪介。


『大丈夫だよ。俺がついてる。傍にいるから』


若葉にかけられた、力強くも、優しい珪介の声音。

それが、紗矢の耳の奥で虚しくこだまする。


「本当に、何なのよ」


こぼれ落ちそうな涙を堪えるべく、空を見上げた。

青い空に小さな雲が浮かんでいるだけで、そこにはもう、何の生き物の姿も無かった。


「お祖母ちゃん」


自分だけが取り残されている気がして、紗矢はすがるようにその名を口にしたのだった。


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