「珪介君っ!」


重い足を必死に前へと出し、紗矢は珪介を追いかけた。


「珪介君! 待って!」


息も絶え絶えに名を呼び続け、やっと、体育館と図書館の間で珪介に声が届いた。


「紗矢」


珪介は足を止め、ゆらりと振り返り、ほほ笑みかけてきた。

紗矢は一度足を止めてから、息を整えつつ、一歩一歩珪介に向かって進んでいく。

互いの距離が短くなっていく。

辛さや痛みが和らぎ、徐々に心が喜びで満ちていく。

自然と、紗矢も珪介に微笑み返していた。


「紗矢」


珪介が迎え入れるように手を広げた。

愛しさのままに、紗矢は珪介へと手を伸ばし――……ぞくっと身を震わせた。

違和感を覚え、ぴたりと足を止める。

珪介なのだけれど、何かが違うような気がした。


「……珪介、君?」


ぎこちなく問いかければ、珪介が笑みを深めた。

夢から覚めたように、心が一気に冷えていく。

紗矢が伸ばしていた手を引っ込め、半歩後退すると、珪介から笑みが消えた。

珪介の右頭部が闇の色に染まり、風に巻き上げられたかのようにざわりと動いた。

恐怖で足を竦ませた紗矢の視線の先で、蠢く影たちが元の場所に戻り、再び珪介を形成していく。

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