苦しそうな声を発しながら長の躰がぐらりと揺れ、紗矢は慌てて長の背中から降りた。

床に降り立った瞬間、柱と柱の間から強い風が吹き抜けていく。

突風に煽られよろめきながらも、紗矢は降りたばかりの長の躰にしがみつき、必死に堪えた。

風が止む。音も止み、場が静けさを取り戻すと、不意を衝くように卓人が笑った。

くぐもった笑い声が響き、反響し、薄気味悪さを増幅させていく。

笑い続ける卓人と、卓人の斜め前に立ち興奮気味に鳴き声を発する灰色の鳥獣。

珪介と紗矢が困惑し見つめる先で、肩を揺らし笑っていた卓人の顔から、突然笑みが消えた。


「やっぱり求慈の姫に戻っちゃったんだ」


非難じみた声音でそう呟き、卓人は紗矢を見た。

鋭く攻撃的な瞳と、ゆらり現れた灰色の光に、紗矢は言葉を返すことが出来なかった。


「何でお前がここにいる」


珪介は庇う様に紗矢の前へと移動し、刀の切っ先を卓人に定めた。


「すべてをぶち壊してやろうと思って」


臨戦態勢に入っている珪介を一瞥し、卓人は鼻で笑った。

感情のこもっていない声音が、冷たさと異様さを際立させ、嫌な緊張感を生じていく。

珪介からも赤い光が立ち上りだす。

一触即発の状態に紗矢が息苦しさを感じた瞬間、柱と柱の隙間からランスが飛び込んできた。


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