「返して!」


転がっていった卵が卓人の手に戻ってしまったことに気付いて、紗矢はすぐさま立ちあがった。

卵に向かって伸ばした手に鈍い痛みが走る。

苦悶の声をあげ、鳥獣に踏まれた手を抱くように、紗矢は背中を丸めた。

珪介は労わるようにそっと紗矢の背に手を添える。

歯を食いしばり痛みを堪える紗矢を感情のない瞳で一瞥したのち、卓人は再び口を開いた。


「長がいなくなったら、この地はどうなると思う?」


問いかけてはいるけれど、答えは求めていないようだった。

さして興味がないような顔で、卓人は卵を見つめている。


「抑圧していたものから解き放たれて、新たな時代が幕を開けるのかな。五家も、鳥獣も、異形も、純粋に強いものが上に立つ。下剋上みたいな時代がね」


長の新たな命を繋ぐことが出来なければ、異形が我が物顔で町を闊歩し始めるだろう。

それで犠牲になるのは、力を持ってしまった女性だ。

血の匂いが鼻を突き、紗矢はそんな光景を一瞬想像してしまう。

ぞくりと身を震わせ視線を動かすと、灰色の鳥獣が翼から血を滴り落としながら、主の元へと向かって行くのが見えた。


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