関節を曲げることなく、幼い珪介は起き上がった。

黒髪、頬、顎先から、ポタリポタリと水滴が落ち、幼い顔が険相さを際立たせていく。

祠の中から毛の塊が飛び出し、小さな体に噛みついた。

小さな珪介はさっきの祖母と同様、珪介そのものではない。

本物は目の前にいるこの人だ。

そう頭では分かっているのに、痛々しい光景に、思わず紗矢は一歩前進する。


「珪介君っ!」


黒々とした塊が次々と珪介に飛びかかり、小さな体の半分を覆い隠していく。


「……珪介君」


続けざまに名を呼べば、眼前に壁の如く立っている珪介本人が面白くなさそうに呟いた。


「珪介珪介言うな。嫌がらせか」


振り返りもせず掛けられた言葉に、そんなつもりはないと返答しようとした時、幅の広い珪介の両肩からふわりと赤い粒子が舞い上がった。


紗矢の鼓動が強く反応する。


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