正直、ちょっと複雑な心境だった。
 卒業アルバムではなく、もっと違う手段で住所を知っていてもらっていたら、自分は特別なんだと喜べたかもしれないのに。

 私が軽く凹んでいることに新堂先生は気付いているのかいないのか――多分、気付いていない可能性大だけど――、先ほどとは打って変わって淡々と話を進めてゆく。

『それじゃ、十一時にはちゃんとT駅まで迎えに行くから。飯食う場所は、落ち合ってから決めよう』

「分かりました」

『じゃ、今夜はゆっくり休んで』

「はい。先生もゆっくり寝て下さい。おやすみなさい」

『おやすみ』

 私は新堂先生が電話を切るまで携帯を耳に当てていたのだけど、切る気配が全くない。
 少し待って、でも、やっぱり通話が途絶えないので、「あの」と思わず声をかけてしまった。

『ん、どうした?』

「それは私の台詞です。どうして電話を切らないんですか?」

『どうして、って……。僕から切るのは悪いような気がして……』

 もはや、優しいというよりも気が小さいとしか捉えようがない。
 私は苦笑いしながら、「遠慮しないで下さい」と静かに、けれどもキッパリと告げた。

「先生が切りづらいなんて言ったら私だって切りづらいです。何でしたら、同時に電話切りますか? それならば後腐れないでしょ?」

『まあ、そうだね』

「それじゃあ、『せーの』でいきますよ。いいですね?」

『分かった』

 新堂先生が答えてから、私と新堂先生は同時に、せーの、とかけ声をかけ合う。
 私はそのまま通話を切ったけど、新堂先生はどうだろう。
 まさか、切れたのを確認してから、なんてこともあり得なくなさそうな気がする。

「大人なのに……」

 携帯のディスプレイに向かって呟くと、私は携帯をそっと畳んだ。
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