◆◇◆◇

 結局、味噌汁を作るだけで一時間近く時間を費やした。
 もちろん、理紗は慣れていないのだから無理もないことだし、何より、怪我を全くされなかっただけでもホッとした。

「それじゃ、食べようか?」

 僕が言うと、理紗は両手を合わせて、「いただきます」と挨拶する。
 そして、やはり味が気になったのだろう。
 最初は味噌汁のお椀に手を伸ばし、口を付けて静かに啜った。

「良かった、食べれます」

 安心したような理紗の言葉を聴いてから、僕も倣って味噌汁をゆっくり流し込む。

「うん。初めてにしては上出来」

 そう言いつつ、正直、少しばかり薄いようには思えた。
 でも、さほど気になるほどでもない。それに、塩分控えめな方が身体にいいんだし、と自分に言い聞かせた。

 もうひとつ、気になっていたのは肉じゃがだった。
 自分好みの味付けにしてあるから、僕は普通に美味しいと思っているが、果たして理紗はどうだろう。
 つい、理紗の反応を覗ってしまう。

「――どう……?」

 口に出して訊ねてしまった。

 理紗はじゃがいもを何度も咀嚼し、飲み込んでから、顔を上げて僕を見つめた。

「とっても美味しいです」

「――ほんとに?」

「ほんとです。お母さんのと同じ――ううん、お母さんのより美味しいです」

 これは相当な高評価だ。
 ただ、理紗のお袋さんが作ったものよりも美味しいというのは、嬉しい半面、お袋さんに申し訳ないと思ってしまう。
 理紗の言葉のニュアンスから、お袋さんこそ、なかなかの料理の腕前なのではないだろうか。
 でも、ここでいちいち水を差すことこそ無粋な気がして、僕は素直に、「ありがとう」と感謝を述べた。

「理紗の口に合ったみたいで僕もホッとしたよ。いっぱい作ってあるから、食えそうだったらいくらでも食っていいから」

「はい、ありがとうございます」

 理紗は目尻を下げながら、ゆっくりと、でも休めることなく箸を動かし続ける。
 その様子を眺めつつ、僕も次々と口に運んだ。
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