「なあに理紗、あんた、お酒に興味あるの?」

 まだ中身がありそうなビール缶を右手で揺すり、左手で頬杖を突きながら、容子さんは理紗に向かって口の端を上げる。

 理紗は困ったように眉根を寄せ、「別に」と目を逸らしてしまう。
 唇もわずかではあるが尖らせているから、どうやら拗ねているらしい。

「あらあら、やっぱひとりだけお酒飲めないのが悔しいのねえ」

 理紗を宥めるどころか、容子さんは面白がって茶化すものだから、理紗はまたさらに機嫌を損ねてしまい、今度は上目遣いで容子さんを恨めしげに睨んだ。

「ま、まあ、別に飲めることが偉いってわけじゃないんだし……」

 ふたりの間に流れる微妙な空気にタジタジになりながらも、僕は理紗を慰めた。
 本来であれば抱き締めてあげるところだけど、容子さんのいる前ではさすがに出来ないから、不自然に思われない程度に肩を何度も軽く叩く。

「それに、飲んで失敗する例もたくさんあるから。無理して飲むもんじゃないよ」

「そうそう」

 僕の言葉に、容子さんは缶を握ったままで大きく首を縦に動かす。

「とりあえず、理紗は私の子だから失敗なんてしないと思うけどお? 大丈夫よ、あんたが成人したら、私がちゃーんとお酒の嗜み方を教えたげるから。うん、我ながらいいこと言ってるわあ」

 別に何もいいことなんて言ってないですけど、とは口が裂けても言えなかった。

「ほらあ、飲むだけじゃなくってご飯も食べなさい! 理紗とマーさんのためにいっぱい作ったんだからあ」

 缶ビール一缶未満ですでに酔っ払いと化しているのは気のせいだろうか。
 僕は苦笑いしながらビール缶をテーブルに置き、代わりに箸を手に取った。
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