―2001年・4月―
「夏、行くよ~」
母親の郁美に呼ばれ、国枝 夏は濡れた瞼をゆっくりと開いた。
「はーい」
返事だけ返して、写真に手を合わす。
「…行ってきます、海兄」
写真の中では夏の大切な人が微笑んでいる。
夏は真新しい制服の裾をぎゅっと握った。

「ごめんごめん。行こっか」
「お父さん、もう車乗ってるよ!」
郁美はそう言って玄関の鍵を閉めた。
「夏、行くぞ!入学式遅れちまう」
父親である亮もそう言って手招きした。
―高校1年の4月。
今日は神ノ上学園の入学式。
ここは都内で有名な私立高校だ。
「海くんも、喜んでるかな?」
郁美が控えめに言う。
「お母さん、それは…」
「いいの」
海の話題を避けようとする亮に夏は首を振った。
「喜んでるよね?」
夏はそう言って窓から空を眺めた。