Return!!

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「東城さんって、どこに住んでんの?」

小林君がそう言ってわたしに話しかけてきたのは、去年の終わりくらい。
何でそんなこと聞くの?って聞き返したけど、答えてもらえなかった。
ホントは理由なんて聞かなくても分かってたけど、嫌な感じがしたから、小林君の前ではヒナちゃんの話題は避けた。

「小林って、女子とっかえひっかえしてるんだって」

隣のおしゃべりなマキちゃんがそうわたしに教えてくれたからかもしれない。
本人に直接聞いたわけじゃないからはっきりとは分からないけど、小林君は、美人で完璧なヒナちゃんを好きなのだ。

好きがどういう好きなのかは分からない。
けど、少なくとも"永遠の愛"には程遠いような気がして、わたしはヒナちゃんのことをしつこく聞いてくる小林君を避けるようになった。

単純に、恐かったんだ。

運動部のキャプテンで背が高くてかっこいい小林君、けど、恐い小林君。
まるで、わたしはヒナちゃんの傍に居ちゃいけないって言われてるようで、にらまれると震えが止まらなかった。

明日、ヒナちゃんに謝っとこう。
わたしはシャワーを浴びると、ぼふっとベッドに倒れこんだ。
お父さんはお仕事、お母さんはお夕飯の準備。
一人部屋がうらやましいって子がいるけど、わたしはそうは思わない。
小さい時はよかったな、たっちゃんがよくうちに来てくれてたから。
そう、たっちゃんがいれば恐いものなんてなかったんだよね。
気弱になってしまうと、今でもついつい考えてしまう。
たっちゃんがいたらなぁって。
正義感が強くて、弱い者イジメが大嫌いな、ヒーローみたいなたっちゃん。
イジメっ子に取られたわたしのノートを、傷だらけになってまで取り返してきてくれた。

すっかり懐かしくなってしまって、わたしは身体を起こすと、引き出しの奥にしまってあった小箱を取り出して開いた。
中には三種の神器よろしく並んだアクセサリー。
プラスチックで出来たお花のイヤリング、金メッキのブレスレット、ビーズで編んだ指輪。
どれも今身につけるのはちょっと気が引けちゃうような、おもちゃのアクセサリーだ。
これは小学生の頃に、わたしとたっちゃんとヒナちゃんで交換しあった思い出の品。
それぞれお揃いになるように持ち寄ったもの。
ブレスレットはヒナちゃんが用意してくれたんだよね。
控えめなヒナちゃんらしい、シンプルなデザイン。
ビーズの指輪はたっちゃんがくれたものだ。
たっちゃんは気が強くて男子ともすぐケンカしてたけど、手先がとても器用で、きちんと3人分お揃いの色で編んで渡してくれた。
イヤリングはわたしが2人にあげた。
これにはちょっとしたエピソードがある。
わたしの手元には一組あるんだけど、ヒナちゃんとたっちゃんには片方ずつしかない。
2人に渡すものを探してたわたしは、このイヤリングを見つけたんだけど、ピンク色と透明なのが一組ずつしか売ってなかったんだよね。
当時はどうしてもこれを2人に渡したくて、わたしがピンク色を一組取っておいて、透明の方を2人に分けてあげることにした。

ヒナちゃんは「ちゃんとクローゼットの奥にしまってあるわよ」と言ってたけど、たっちゃんはどうかな。
引っ越した先には持って行ってくれたかな?
どこに引っ越しちゃったんだろう。

会いたいよ、たっちゃん。

わたしはひとしきり懐かしむと、パタンと箱を閉じた。
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