Return!!

-6-

土曜日まではあっという間だった。
学校の授業は午後までだったから、ヒナちゃんはさっと帰り支度を済ませて教室を出て行った。

「おい、咲っち」
「うん?」
マキちゃんはわたしのことをいつもこう呼んでる。
くだけたあだ名が好きなんだそうだ。
だからわたしもマキちゃんって呼ぶことにしてる。
栗原 環(くりはら たまき)だから、マキちゃん。
マキちゃんは、高校に入ってから出来たわたしとヒナちゃんのお友達だ。
ユーモアがあってセンスもいい、快活で、いつも歯切れよくしゃべってる、オレンジ色の女の子。そんなイメージ。
そんなマキちゃんがいつになく鋭い目つきで言った。
「尾行するぞ」
「ビコウ?」
一瞬考えが追いつかなかった。
でも、じわじわマキちゃんの思考が理解出来てくると、わたしは身を乗り出してマキちゃんを止めた。
「ダ、ダメだよっ、マキちゃん!!」
ヒナちゃんは物知りなマキちゃんにデートのことを相談していた。
慎重なヒナちゃんだからこそだったんだと思う。
付き合うのを断りたいけど、勢いでたった一度のデートを約束してしまった話をマキちゃんは黙って聞いていた。
一日適当なところをブラついて別れればいいとか、そんな話をしてたと思う。
わたしはというと2人の会話を傍でぼんやり聞いてただけだから、具体的に何をどうするかというところは頭からすっぽり抜け落ちていた。
「尾行ってハンザイだよ」
わたしは出来るだけ小さい声でマキちゃんに言った。
「何言ってんの、アンタを脅しつけてヒナ子を手篭めにしようとしてるのよ? そんな性悪が何をしでかすか分かったもんじゃないって」
「だ、大丈夫だよ、小林君だって悪い人じゃないよ、たぶん。恐いけど……」
「善良な人間が人を脅かしたりするもんですか。絶対何か企んでるって」
「そんなまさか……」
とは言いつつも、わたしは背中がゾワゾワするのを感じた。
そう、小林君に睨まれた時と同じような。
わたしはふにゃっと椅子に座り込んでしまった。
「ほら、ふやけてないでとっとと支度する!」
すかさずマキちゃんの叱責が飛ぶ。
「う、うん……」
マキちゃんの勢いに負けて、わたしは何とか勉強道具を鞄に詰め込むと、先導されて教室を出た。
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