夜香花
第八章
 真砂が去ってからも、しばらくぎゃんぎゃんと喚いていた深成だったが、ようやく落ち着き、ぺたんとその場に座った。

「何て奴なのさっ。何あの性格のひん曲がり方はっ」

 ぶつぶつと文句を垂れながら、深成は河原にしゃがんだまま、小石を川に投げ込んだ。
 ぽちゃんと石が川に入り、乱れた流れが元に戻るのをぼんやりと見ていた深成は、は、と振り向いた。
 姿は見えないが、人の気配を感じる。

 深成は素早く、少し向こうの茂みに飛び込んだ。
 気を落ち着け、息を整える。

 やがて里の方角から、何人かの娘が現れた。
 おのおの手に持った大きな桶に、着物らしき布を入れている。
 川へ洗濯に来たのだろう。
 娘らは特に周りを気にする風もなく、河原に桶を置くと、水を汲みながら楽しそうに喋り出した。

「ねぇあき。前の狩り、頭領がお相手だったんだって? どうだった?」

「凄いじゃない! 頭領にお近づきになれるなんて、そうないもの。格好良いし、羨ましいわ」

 無邪気に話す娘たちに、深成は茂みの中から思いきり突っ込んだ。

---はあぁぁぁ? 頭領って真砂のことでしょ? 格好良い? 羨ましい?---

 心の中で叫び、だが慌てて気を落ち着ける。
 何と言っても、ここは忍びの里だ。
 娘たちだって、一応忍びの者だし、変に見つかるのは厄介だろう。
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