夜香花
第九章
「……何をしている」

 家に帰ってきた真砂は、戸を開けるなり眉間に深々と皺を刻んで呟いた。
 良い匂いが、部屋を満たしている。

「びっくりした?」

 部屋の中央の囲炉裏の前で、深成がへら、と笑って真砂を迎えた。

「お腹空いたからさぁ、ご飯にしようと思って」

「そうか」

「……あれ、怒らないの」

 ちょっと意外に思い、深成は真砂を見上げた。
 鍋の中の食材は、キノコ以外はこの家にあったものだ。
 つまり、真砂の持ち物。
 当然断ってなどないのだが。

「散々この家にいたんだ。どこに何があるかぐらい、わかるだろ」

「まぁね~。どっかに持ち出してやろうかとも思ったんだけど」

「どうせ面倒だったんだろ」

 ぽりぽりと、深成は頭を掻く。
 随分深成のことをわかっている。
 単純さ故なのだろうが。
 真砂からしたら深成など、行動パターンが手に取るようにわかるのだ。

「あんたも、ちょっとは心開いてるってことかねぇ」

 鍋の中をかき混ぜる深成に、真砂は渋い顔をした。

「ただお前が勝手にしてるだけだろ。食い物だって、持ってないなら確実にあるところから奪ったほうが楽だ。まぁ、その場で堂々と食事をするところは、理解に苦しむが」
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