ペテン死のオーケストラ

覚悟

翌日、寝不足で苛立っているマルメロを更に苛立たせる出来事が起こります。

「マルメロ、みつけたぞ！」

なんと、ハンノキがマルメロの家にやってきたのです。
マルメロは驚きます。
名前なんて教えていないのに当たり前のように知っている事、それに家まで見つけられたからです。

「何なの？気持ちが悪い！」

マルメロは、恐ろしく感じました。

マルメロが恐れているのに、全く気にせずハンノキは得意げに理由を話します。

「マルメロを探すのには苦労した。だが、この町を制覇しているワシにかかれば簡単だ！それに、優秀な部下共に命令すれば簡単だ。ワシは偉いからな！！」

マルメロはウンザリします。

「結局、金の力…。噂通りね。何もかも下品すぎる」

それでなくても昨夜、貴族には幻滅したのです。
その貴族の中でも、特に酷い男が目の前で下品な自慢話をしています。
マルメロは、ハンノキを睨みつけ言いました。

「見ての通り、私は庶民です。小さな家で、貧しい暮らしをしています。ハンノキ様と会話するなんて失礼になりますわ。どうぞ、お帰り下さい」

マルメロは、ハッキリと拒否の態度をみせました。
ハンノキは金の亡者、そんな男は庶民を軽蔑しているとマルメロは考えたのです。

しかし、ハンノキは大笑いしながら話しました。

「そうか、そうか！なら、家を買ってやろう！！ワシが何でも買ってやるぞ！」

夢のような話しですが、マルメロにとっては屈辱的な言葉でした。
まるで、自分が金で買われているようだからです。
寝不足の苛立ちも手伝って、マルメロは怒ってしまいます。

「屈辱的ですわ！お金で私を買うつもりですのね！ハンノキ様には幻滅いたしました。さぁ、お帰りください！」

マルメロは怒鳴ってしまいました。
それほど、腹が立ったのです。
しかし、ハンノキは全く動じません。
それどころか、嬉しそうに笑うのです。

「そうか、そうか！悪かったな。マルメロに家は買わん！家なんて安っぽいものが、マルメロと同等なんて有り得ん！では、何だったら良いのだ？」

ハンノキの発言に、マルメロは驚いてしまいます。
全く意味が通じておらず、更に金の話しをしてきたからです。
マルメロが呆れて黙っている間も、ハンノキは嬉しそうに話しかけてくるのです。

「ワシは、マルメロに気に入ってもらいたい！マルメロの欲しいものは何でも与えるぞ！ワシは恋に落ちたのだ！」

マルメロは寒気がしました。
思わず眉間にシワを寄せて「ひっ！」と、小さく悲鳴をあげてしまうほどです。
ハンノキは気にせず続けます。

「マルメロには是非！ワシの嫁になってもらいたい！だから、マルメロの両親にも挨拶をしたいのだ！」

マルメロは、恐怖と怒りが入り混じり今にも爆発しそうです。

「父親はいません。失礼ですわ」

マルメロは何とも思っていませんでしたが、ハンノキに反抗します。

しかし、ハンノキは大笑いするだけで「母上だけか！それは挨拶もしやすい」と、ご機嫌なのです。