優しい爪先立ちのしかた
彼の膝


空が明るい。梅雨も明けて、高校最後の夏休みが来る。

受験生組にはとっては休みなどではないが。

「そういえば、栄生ちゃんは受験するの?」

昨日から冷房の調子が良くない部屋で、栄生は自分に向かってパタパタと下敷きで仰いでいた。

「するよ」

カナンの視線に仰いで欲しいのか、と思い違いをして、その風をカナンの方へ向けた。頼んでないけれど有り難く仰いでもらう。

「え、するの?」

「え、するよ? カナンも受験でしょう?」

「そうだよー。夏休みは予備校行かなきゃだなあ」

暑さと勉強とで潰れそうだ。

それは大きな屋敷に住む栄生にしろ、部活大好きなカナンにしろ。

「そういえばさ、この前は梢さんに会えた?」

この前、はて。栄生は考えこんで、思い当たる節にカナンへ風を送るのを止めた。



< 81 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop