私は彼に愛されているらしい2
嬉しそうに笑う大輔を合わせて有紗も精一杯の作り笑いをした。

「年末も近いし年内に挨拶に行っときたいと思ってたんだけどな。」

「うちのお兄ちゃん、最近彼女と別れたらしいから…止めた方がいいかも。」

「兄ちゃん?3個上の?」

「うん。結婚するかもって家族は盛り上がってたんだけどね。」

それは残念だと大輔は表情で情を寄せる。

苦笑いする有紗を見つめ、そして兄の話を聞いたことによって情けが生まれた大輔はまた何度も細かく頷くと納得の声を漏らした。

「まあ、ゆっくり行くか。」

28歳の兄の結婚話は作り話だったが、彼女と別れたという話は母親から聞いた話だったから間違いではない。

少しの罪悪感を抱きながらも有紗は苦笑いでまた洗濯物を畳み始める。

「大輔、これ片付けとくね。」

「ああ。ありがと。」

大輔の服を収納している箱に戻すと視線を感じて有紗は振り向いた。

「なに?」

「いや。様になってきたなと思って。」

「はあ?」

「あ、違うな。」

そう言うと大輔は口元を手で覆いながらはにかみ一度視線を横に逸らす。

「なんかいいなって思ってさ。新婚みたいで。」

顔をほんのりと赤く染めながら呟かれた言葉に有紗の時間が止まった気がした。

「…なにそれ。」

「だよな。悪い。飯でも食いに行くか!」

決して目を合わさないように立ち上がると大輔は洗面所の方に歩いていく。

そんな大輔の後ろ姿を見つめる有紗の顔は引きつったまま、視線はやがて手元へを落ちて表情が消えた。

この虚無感は何だろうか。

言い様のない心のざわつきに泥々とした感情を思わせる。

そして心の中に影を落とし、自分の心を見失った気がした。

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