私は彼に愛されているらしい2
ダメだ、翻弄される。

まるで催眠術をかけられているみたいに今の有紗の世界には大輔しかいなかった。

強い眼差しが、声が、そして言葉が有紗の逃げ道を確実に塞いでいくのが分かる。向き合えと、ここに来いと、そこには1本の道しか用意されていないのだ。

「今日から俺は容赦しないぞ。有紗。」

そう大輔が笑ったのは覚えている、しかしあとは殆ど記憶がなかった。

強烈過ぎて殆ど覚えていないのだ。

どうやって車内で過ごしたかも、どんな会話をしたのかも、いつ家に着いたのかも記憶にない。我に返った時はベッドにもたれて不意に卒業アルバムの背表紙を見つめた時だった。

クラスメイトとして出会ってからもう10年近い。

互いの世界を持ちつつも関わり合いを断つことなく、時に感化し合いながら過ごしてきた10年間。

性別を超えて親しく出来る特別なもの、誇らしく思っていた2人の関係があの電話をもって終わってしまっていたなんて有紗には信じられなかった。

「なんで今さら…。」

頭の中が混乱しすぎて膝を抱えて閉じこもる。

決意を持った大輔の言葉が怖い、まっすぐに向けられる大輔の視線が怖い、まるで別人の様に感じて受け入れを拒否するように思考を閉じた自分が情けなかった。

大輔の変化についていけない。

ズルいことに、大輔は有紗に指一本触れようとしなかったのだ。

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